毎年十二月十日は「世界人権デー」で、一九四八(昭和二十三)年の第三回国連総会で「人権に関する世界宣言」が採択されたのを記念し、その実現を訴える日であり、ノルウェーの首都・オスローでは、獄中の劉暁波氏に対するノーベル平和賞授賞式が予定されている。
一九八九年の天安門事件参加で逮捕・投獄され、他の民主活動家が病気治療の名目で国外移住を選択したのに対し、これを退けて刑期を満了し、二〇〇八年に「〇八憲章」を起草・公表したため、さらに十一年の刑に服している劉暁波氏の勇気と良心は最大の賞賛に値する。しかし、同じこの日、十五年の刑期を終え、内モンゴル自治区・赤峰刑務所を出所するモンゴル人活動家・ハダ氏の存在にも世界は気付くべきである。モンゴル文化の保護や民族自決を訴え、一九九二年に「南モンゴル民主連盟」を組織したハダ氏は、一九九六年に逮捕され、国家分離およびスパイ活動の罪で有罪判決を受け、来る十二月十日が刑期満了の日となる。
ハダ氏の妻・シンナさんの活動も高く評価されるべきである。夫の不在中、フフホト市で書店「モンゴル学書社」を経営してきたのは生計のためだけでなく、モンゴル人同胞にその文化と抵抗の精神を絶えさせまいとする思いであったろう。中国当局の厳重な監視下にあるシンナさんは意見発表の機会を奪われているが、ニューヨークに本拠を置く「南モンゴル人権情報センター」は国際電話で取材した談話をインターネット上に掲載し、獄中のハダ氏個人の動静のみならず、情報統制下にある南モンゴルの現状を知らせる貴重な情報源となってきた。
日本に黄砂をもたらすモンゴル高原の砂漠化は、清朝末期から遊牧地帯に入り込んだ漢族が、草原しか養うことのできない痩せた土壌を開墾しては放棄してきた結果である。最近は、その地下に莫大な鉱物資源が確認され、原住民であるモンゴル人は「過放牧禁止」や「生態回復」という欺瞞の環境政策で強制的に立ち退かされ、漢族官民は結束して利益を独占しようとしつつあり、鉱山開発権は一切の法的手続きを無視し、勝手にオークションに懸けられる有様だという。劉暁波氏やハダ氏だけではない。中国の民族差別、官民差別の悪辣さからして、中国には隠れた*ウ数の英雄たちが、日々、命がけで戦っているのである。
(平成二十二年十二月一日)
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