|
年度が終わるたび、学生の皆さんは社会人になるなど、新しい挑戦へと向かいます。モンゴル人留学生も多くの人々が大学院を修了し、自分を自分なりに評価しながら新しい選択を前にして迷われるかと思います。
帰国するか、日本に残るか。あるいは就職するか、進学するか。こういった問題に直面されるでしょう。失敗ばかりの20年間の社会人経験と20年間の学生経験を持つもの（そして今でも学生）として、私はひとこと申し上げたいと思います。ご参考になれば幸いです。
真実について
自然の世界と人類の長い歴史の中には数え切れない未知のものがあり、一見真実に見えるものの中にも多くの虚偽が混じっています。人間の生命は余りにも短く、真実の全てを知ることは誰もできません。しかし、私たちは前人が真実として伝えてきた知識を学ぶことで、知るべきである真実を身につけることができます。これが勉強です。そして、学校は真実を探り、真実を伝えるための機関であると私は考えます。
私たちモンゴル人留学生は殆どが日本の大学院に入っています。しかし、だからといって自らが非凡な能力を持っていると思ってしまうのは大間違いです。実際には、私たちは勉強不足であり、虚偽に騙されていることが多く、真実を学べていることは稀です。
言い過ぎであると思われるかもしれません。我々留学生は、先生方に真実を知る意欲があると認められているからこそ入学してきたのでしょう。しかしそこには、勘違いもあるのではないかと思います。来日してから2年、あるいは10年といった年月を経て、良く勉強したといっても、伝統文化から先端技術、民主主義から独裁体制、人間性と共産主義、こういった知るべき真実をどれほど知っているでしょうか。我々はより謙虚に、より真剣に、真実を探る努力が必要ではないでしょうか。
私たちは真実を知る権利を持っています。これは生まれながらに持っているはずのものです。また、真実を次世代に伝える義務も存在していると私は考えます。
学生生活・留学生活の中で、真実の一端でも学んだことによって、私たちは将来の自分の選択肢を拡げることができました。その選択の中には、自由人となるか、奴隷になるかという選択肢も含まれているのです。それも、自由の１つの要素なのです。
幸福について
「内モンゴル自治区」ではモンゴル語を喋ることではなく、中国語だけを喋ることが能力の基準とされています。これと同じように、私たちにはお金が幸福の基準であるという錯覚があります。
モンゴルに「他人に押し付けられる幸福より自分で選んだ苦しみのほうがまし」ということわざがあるように、幸福は精神的なもので、心から来るものであります。もちろん、幸せな生活にお金は必要です。しかし、お金さえあれば幸福だとは限らないでしょう。例えば、金持ちになっても自由がなければ幸せとは言えないし、祖父のお墓を売り出して金持ちになったような人も幸福だとは言い難いでしょう。
誰でも幸福には憧れます。私たちも、幸福になる夢を追って来日したと言っても過言ではないと思います。
大学を卒業しても、故郷には自由に生きて行くための職場を得なかった。そのとき、職業に就くために充分な賄賂を送らなかったからではないかと考えた人も多いのではないでしょうか。一生懸命にアルバイトをして貯めたお金で中国人の役人に賄賂を贈れば、彼らの仲間になれると思ってしまった。そうすれば、幸福に恵まれるとも思ってしまった。こういう経験を持つ人もいるのではないでしょうか。
しかし、基本的人権さえ剥奪された民族にとって、平等、自由、幸福などはそう簡単に得られるものではありません。どんな植民地でも、奴隷を管理するための「奴隷の管理員」はそれほど人数が要らないのです。植民者は積極的な洗脳と残酷な鎮圧で支配を維持しようとします。
同胞であるモンゴル人の管理員となり、モンゴル人を搾取・圧迫することで、故郷のモンゴル草原の自然を破壊することで、地下資源を掘り出して「朝貢」することで、モンゴル民族を絶滅させる役割を果たすことで――そんなことで中国共産党に「優秀」と言われても、本当に中国人から信頼されると思いますか。「平等」、「和協」、「幸福」な関係が生まれると思いますか。
悲しい真実を知ることより、一生騙され続け、馬鹿にされることを幸福だと思ってはいけないのです。もしそうしたならば、私たち南モンゴル人は自分の家畜と一緒になってしまうでしょう。草原もなくし、柵の中に閉じ込められることで、さらに苦しめられることになるでしょう。
これから未来を迎える皆さんに、ぜひ考えて頂きたいと思います。
ジリガラより
|